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東京高等裁判所 昭和17年33号 判決 1949年6月25日

東京都大田区久ケ原町七百五十五番地三木多笑方

原告

原藤理吉

被告

右代表者

法務総裁 殖田俊吉

右訴訟代理人

法務府事務官 鈴木喜代磨

塚本馨

右当事者間の昭和一七年第三三号国税滞納処分不服の訴につき当裁判所は次の通り判決する。

主文

本訴は之を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は被告が昭和一七年五月六日東京財務局長栗原修をしてなさしめた裁決及同十年九月十四日幸橋税務署長をしてなさしめた金二十六円七十九銭の国税滞納処分を取消す訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求むと申立てその請求原因として本件国税滞納処分は違法であるなんとなれば(一)差押の要件は債務者に対する差押の通知を必要とし差押の通知は文書によるべく本件においては差押調書によらなければならない。しかるに本件差押調書は省略表示してあるから差押の要件を欠き本件差押は違法である。又その金額においても適当の差押をなし原告において納税の義務のない原藤定録名義の土地についてもその税額を加算して本件滞納処分をしたのは違法である。原裁決は原告が他人名義の土地に対する賦課について異議の申立をしてのにこれが裁決を遷延し該賦課が取消されない以上右滞納処分は違法でないというが右は全く国税徴収法の原則を無視したもので違法の賦課を有効と前提した本件滞納処分は違法である。(二)甲府地方裁判所が本件土地についてした仮処分命令は原告の委任したものでもなく原告の法定代理人でもない甲府区裁判所の執達吏を法定管理人として本件土地を管理せしめる法定効果を発生せしめた裁判所の命令であるから右管理命令中には納税義務をも包含すると解すべきを正当とする。然るに裁決はこの国家の法的命令を無視して単に所有者に賦課すべきものであると釈明し原告の訴願を排斥したのは全く法の解釈適用を誤つた違法がある。(三)本件訴願は二十六円七十九銭について滞納処分の取消を求めているのである。しかるに裁決では甲府税務署長が昭和十二年三月二十日賦課の一部を取消し原告に通知したからこの点に関する訴願の理由は消滅したというのであるが滞納処分後においては既に税額は被告の領得中に存するのであるから訴願の利益がないといつて滞納処分が続行せらるることは違法であつてこの部分については滞納処分を取消すべきものである。(四)納税管理人を置いているのに直接納税義務者である原告に督促をするも違法でないと主張し原告の管理人選定権を無視し突如として原告に対し督促及び滞納処分をするのは全く管理人設置の法意を誤解した違法がある。これを要するに本件滞納処分及裁決は違法であるからこれが取消を求めるため本訴に及ぶと陳述した。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として(一)原告は国を被告として東京財務局長の訴願の裁決及び幸橋税務署長の国税滞納処分の取消を求めているが行政庁の処分の取消を求める訴はその処分をした行政庁を被告としなければならない(行政事件訴訟特例法第三條参照)のであつて国は被告としての適格を有しない。しかるに本訴は正当な当事者でない国を被告として提起せられたものであるから権利保護要件を欠くものとして棄却さるべきものと思料する。(二)原告は本件滞納処分は違法であるというが何等違法とすべきところはない。即ち(イ)原告は幸橋税務署長のした差押調書は内容を省略表示しているから違法であり従つて差押もその要件を欠き無効であると主張するが国税徴収法施行規則第十六條により差押調書の作成が要求されるのは,これによつて差押の事蹟を明確にしてその処分を公正に期しようとするためである。従つて同條第一項第三号に掲げる「差押の事由」もいかなる租税の滞納によつて差押をしたものであるかを明かにすれば足るものであるが本件差押調書によれば昭和八、九、十年度田租一、二、三、四期、畑租一、二期、宅地租一、二期と記載してあつて差押は前述した地租の滞納によるものであることが明らかであるからこれを以つて本件差押調書の作成が違法であるということはできない(明治四十年六月二十四日行政裁判所判決参照)。(ロ)「原告は本件係争の土地は仮処分の執行中のものであり、甲府区裁判所執達吏において保管しているものであるから、本件地租も執達吏において納税すべき義務があり原告には納税の義務はなく、従つて本件差押は違法であると主張する」が地租の納税義務者は納期開始の時において土地台張に所有者として登録せられたものである(地租法第十二條)しかして本件土地の納期開始の時において土地台張に所有者として登録せられていたものは原告であるから原告に本件地租の納税義務のあることは明らかである。従つてその滞納による本件差押も適法であり、原告の主張はとるに足りない。(ハ)「なお原告は昭和十七年五月六日東京財務局長がした訴願の裁決において地租の一部は本件滞納処分及び本件訴願提起後甲府税務署長によつて取消されているから、この点に関する訴願の理由は消滅したと判断した点は違法であり本件の滞納処分は過当の処分であるから違法であると主張する」が、訴願が提起された後においても裁決あるまでは税務署長において誤謬を発見したとき原処分を訂正変更しうることはいうまでもなく、これによつて原処分は原告の利益に変更されたものであるから訴願の理由が消滅することは当然であつて、この点に関する訴願の裁決は何等違法ではない。しかして甲府税務署長が原処分の一部取消をした結果、過納分となつたもののうち、山梨県東山梨郡中牧村大字倉科二〇四二番の土地については、昭和十年度田租第一期分(昭和十一年一月納のもの)から原告の名寄帳より除却し、この土地に対する田租昭和六年分金十銭同七年分金十六銭同八年分金十六銭同九年分金十六銭畑租昭和七年分金三十八銭同八年分金三十八銭同九年分金三十八銭合計金一円九十二銭は帳簿上一旦原告に還付すると同時に原藤定録分として、その相続人である原告から徴収したものでありまた同郡同町同字一九三七番地林十四歩については賃貸価格は金十一銭であつたため、地租法第七十三條により最初から地租を徴収しなかつたのであるから、本件滞納処分は何等過当の処分ではなく違法ではない。(二)「原告は、山梨県東山梨郡中牧村一四四一番地畑六畝十四歩外三筆に対する地租については、納税管理人があるにかかわらず、直接納税義務者である原告に対し督促したのであるから、その督促は法律上効力がなく、従つて本件滞納処分も違法であると主張するが、納税管理人の制度は、納税義務者が納税地に住所又は居所を有しない場合に生ずる徴税上の不便を避けるために認められたものであつて(国税徴収法第四條の六参照)納税管理人に対し納税の告知及び督促に関する書類の送達をすることによつて租税の徴収が迅速円滑に行われることを企図したものである(国税徴収法第四條の七第二項)。従つてこれは専ら租税徴収上の便宜に出でたものであるから納税管理人があつた場合において納税義務者本人に対し督促をすることを何等妨げるものではない。従つて納税義務者である原告に対しなされた督促は有効であつて、これに基く本件滞納処分はもちろん適法である。」以上の理由により原告の主張は何れも失当であつて本訴訟請求は理由がなく棄却さるべきであると陳述した。

理由

裁判所法施行法第二條第二項には「裁判所法施行の際現に行政裁判所に係属している行政訴訟事件については行政裁判所にした行政訴訟の提起はこれを東京高等裁判所にした訴の提起とみなす」とあり裁判所法施行令第四條第二項には「東京高等裁判所は(中略)裁判所法施行法第二條第二項の規定に基いて取扱うべき事件については従前行政裁判所に行政訴訟を提起することの許されていた事項について裁判権を有する」とあるから推考すれば従前行政裁判所に行政訴訟を提起することを許されていた事項に該当するかどうかについては勿論右該当事項の出訴について適法の手続を履践してあるか否かの点に関しても同じく行政裁判法を適用して判断しなければならない趣旨と解釈するを相当とする。而して行政裁判法の規定の趣旨によれば行政処分又は裁決の取消変更を求める行政訴訟の被告たるべきものは処分行政庁又は裁決庁であつて国を被告とすべきものでないことは明かである本件訴状によれば本訴は昭和十七年六月十九日行政裁判所に提起せられたものであつて幸橋税務署長の滞納処分及東京財務局長の裁決の取消を求むるものであるから処分行政庁である幸橋税務署長又は裁決庁である東京財務局長を被告として訴を提起すべきものであつて国を被告とすべきものではない。しかるに前記訴状その他本件記録によれば原告は国を被告として本訴を提起し行政裁判所の被告を東京財務局長と訂正すべき趣旨の再度の照会に対し今にいたるもこれが訂正をしないことが明かであるから本訴は不適法として却下するを相当とする。仍つて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條に従い主文の通り判決をする。

(裁判長判事 玉井忠一郎 判事 斎藤直一 判事 山口嘉夫 判事 近藤隆蔵 判事 高野重秋)

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